高周波焼入れとは?特徴や焼き戻しとの違い

この記事では、焼入れとは何か?焼き入れと焼き戻しの違いについて説明します。また、高周波焼入れとはどのようなものか?その特徴や効果・仕組みなどを解説します。高周波焼入れにはどのような鋼材が適しているのか?その用途や高周波焼入れの種類などについても解説します。

高周波焼入れとは?特徴や焼き戻しとの違いのイメージ

焼入れ(焼き入れ)とは?

焼入れのことを英語では、

  • ハードニング(硬くする):Hardening
  • クエンチング(急冷する):Quenching
  • クエンチ・ハードニング(急冷して硬くする):Quench Hardening

という表現を使い、JISの加工記号では「HQ」と表現します。

「焼入れ」は「焼き入れ」と表記することもあります。本記事ではJISに準じ「焼入れ」に表記を統一します。

焼入れは、熱処理による加工のひとつで、鋼材を硬くする目的で行います。
焼入れ処理によって硬くなる程度は、鋼材に含まれる炭素の量や他の合金元素に左右され、「焼入れ性が良い鋼材」は、硬化の程度が高いといえます。

「焼入れ性が良い鋼材」は、空気や油といった冷却の媒体を選ばずに焼入れすることが可能です。
鋼材の組織構造が変化する温度のことを変態点と呼び、その変態点以上の温度に上昇させて一定時間経過してから、急速に冷やすことを「焼入れ」といいます。

「焼入れ性が良くない鋼材」の場合は、加熱した後に水などで急激に冷やさないと、理想的な鋼材の硬さにはならないので注意が必要です。

焼入れは、質量が多い鋼材では冷却速度が遅くなります。
この現象を質量効果と呼び、質量の多い鋼材を熱処理加工する場合は、質量効果を考慮して工程を設計する必要があります。

焼入れが未処理の鋼材は、もろくて耐久性に欠けます、また、割れやヒビなどが入りやすいものです。
焼入れ処理を行なうと、強度が上がり自動車部品や金型用の材料として活用することができます。焼入れは、色々な部品や加工用素材を作るための重要な工程です。

焼入れの方法

「焼入れ」の目的は、鋼材を硬くするために行うと説明しました。
鋼材に熱処理による加工を加えることで、硬度を高くすることが可能です。
しかしながら、そのままではもろくて割れやすくなってしまいます。

そのため、基本的には「焼入れ」を行った後は、「焼き戻し」と呼ばれる工程で硬度を弱め、粘りを増やす処理を行います。
再度加熱して、鋼材の金属組織がオーステナイト化したあとに、水や油などの冷却液に入れて急激に冷やします。時間がある程度経過したのちに冷やします。

焼入れと焼き戻しの違い

「焼入れ」では、鋼材を硬くする目的で行います。しかし、鋼材の組織をマルテンサイト化することで硬くはなりますが、そのままの状態ではもろく、そして、割れなどが生じやすい状態となってしまい、使い物にならないので焼き戻しをします。
そこで、「焼き戻し」の工程を行い、粘りや靭性を高めます。
「焼き戻し」では、焼入れを行った後に再度加熱して硬さを調整します。

マルテンサイトとは、鋼材などを急冷してできる安定した組織のことをいいます。鉄鋼材組織の中でも最も硬くて脆い組織です。英語で、焼き戻しのことをテンパリングと呼び、JISでは加工記号を「HT」と表記すると定義しています。

焼き戻しの効果として、鋼材の内部応力の緩和、靭性の強度や靭性の調整、焼入れの硬さの調整などがあります。
焼入れと焼き戻しは、基本的にセットで行うものであり、硬くて丈夫な鋼材を作るために効果的な方法です。

焼入れだけで作られた製品(工具や部品など)の場合、傷がつきやすく破損しやすいです。この焼き戻しは低温焼き戻しと高温焼き戻しに分けられまので、個別に解説していきます。

低温焼き戻し

低温焼き戻しの処理温度は150~200℃で1時間程度の保持時間です。この「低温焼き戻し」により、「粘りのある焼き戻しされた状態」に変わります。
「低温焼き戻し」を行うことで、焼入れに時に生じたストレスが除去でき、その効果として、耐摩耗性の向上や割れなどが防止でき、さらに経年変化にも強くすることができます。

高温焼き戻し

強靭性(きょうじんせい)が必要なシャフトや工具類・歯車などの製造に「高温焼き戻し」が活用されています。高温焼き戻しの処理温度は550~650℃の高温で加熱し(1時間ほど)、冷却は急速な空気で行います。
このことで、焼入れで残留したオーステナイトが、マルテンサイトに変わりますので、再度焼き戻しを行う事で本来の焼き戻しになるという意味です。目的が硬化の場合では、2回以上焼き戻しを必ず行う必要があります。

高周波焼入れとは?

高周波焼入れは、耐疲労性、耐摩耗性を目的とし、鋼材の部品表面の特定部分に行う処理です。部分的に加熱して焼入れし、鋼材の部品全体には処理しません。

高周波焼入れの特徴

  • 熱の効率が良く作業の時間が短いので、省エネ・省力化によるコストの削減ができます。
  • 焼入れ特性を、周波数・出力・冷却システム・コイルの仕様などを適切に組み合わせることで調整することができます。
  • 設計の段階で、冷却装置やコイルの選定などを適切に設計することで、希望通りの焼入れが実現できます。

特徴として、部品の表面には耐摩耗性・内部には靭性の特性をもつことができることが「高周波焼入れ」で、主に機械部品(歯車やシャフトなど)の焼入れに向いているといえます。

高周波焼入れの効果

  • 優れた耐摩耗性・耐疲労性の効果がある。
  • 耐疲労性の低下などの不安定がなく、脱炭がほとんど見られない。
  • 組織が微細なので、延性・靱性・耐疲労性が優れている。
  • きれいな表面で、酸化スケールが少ない効果がある。

高周波焼入れの仕組み

高周波焼入は以下ように行われます。

  1. 焼入れを行いたい鋼材部品に近接したコイルに、高周波誘導電流を通します。電流が流れるとコイルに磁力が発生し、それと同時に鋼材部品に渦電流が発生します。
  2. この渦電流は表皮効果により鋼材部品の表面に集中し、その抵抗熱で鋼材部品の表面のみが高速で加熱されます。
  3. その後すぐに、水などの冷却液で急速に冷やすことで、鋼材部品の表面のみを硬くします。

しかし、加熱したままではもろくて割れやすい状態であるので、150~200℃の低温で焼き戻しを行います。

高周波焼入れのメリット

高周波焼入れのメリットは、鋼材の表面に耐摩耗性、そして内部に靭(じん)性(材料の粘り強さ)を持つことができます。高い圧縮残留応力を持つ焼入れ硬化層は耐疲労性にも優れています。
また、鋼材の表面にのみ電流が部分的に流れるので、高周波焼入れを行ったことによる変形や鋼材の寸法変化のリスクを最小限に抑えられます。

高周波焼入れに使える素材

高周波焼入れは誘導加熱の原理を利用して加熱するため、非磁性体の金属には適用できません。なお、高周波焼入れに適した鋼材は以下のような素材です。

◆ステンレス鋼材:SUS420J2・SUS440C
◆軸受鋼材:SUJ2
◆炭素鋼材:S45C・S50C・S55C
◆炭素工具鋼材:SK3
◆合金工具鋼材:SKS3・SKD11
◆合金鋼材:SCM435・SCM440・SNCM439

高周波焼入れの用途

「高周波焼入れ」では鋼材部品の一部分、または表面から数mmの表層のみ焼入れ硬化するので、表面硬化法ともいわれています。産業機械・工作機械・自動車・建機・船舶用の軸物・歯車類やベアリング等、鉄鋼材部品全般に広く使われる電力をエネルギー源とした熱処理法です。

加熱の原理は家庭などで使う料理用の電磁調理器と同じように、電磁誘導電流によって鋼材部品を急速に加熱します。
家庭用の数kWの電磁調理器と比べて、工業用で熱処理に使用する電力は数100kW~1000kWを超える大きな電力電源を使い、一瞬で(数秒)で部品の表面のみを1000℃近くまで加熱します。

「焼入れ」熱処理法は、古くから刃物や刀剣等に用いられており、赤熱温度以上の一定温度に加熱した後水などの中で急冷却して硬さが得られる方法で、「焼入れ」することで鋼材が硬くなり良く切れる刃物になります。

鉄鋼材部品は硬くすると同時にもろくもなりますが、高周波焼入れでは金属の表面から数mmの表層のみを硬く、そして強くすることが可能で、金属の内部はその材料が持っている柔軟性を活かすことが出来るので、理想的な熱処理方法といえます。

特に自動車業界ではエンジン・変速駆動軸系、懸架装置、ステアリング等の重要可動部品の多くには、高周波焼入れが必須とされています。

高周波焼入れの種類

高周波焼入れ方法には以下のような種類があります。

◆定置一発焼入れ
焼入れ対象となる鋼材のみを回転させて焼入れする場所を一度に加熱して焼入れします。

◆一歯毎焼入れ
ギアの一歯毎に焼入れ行う方法です。歯の形状によってはコイルの製作が必要になります。

◆竪型移動焼入れ
焼入れ対象となる鋼材とコイルを縦方向へ移動させて、連続で焼入れを行います。

◆横型移動焼入れ
焼入れ対象となる鋼材とコイルを横方向へ移動させて、連続で焼入れを行います。

高周波焼入れの方法・行程

  1. 高周波焼入れは基本的に専門の業者に依頼する事になります。
  2. 工程としては以下の順番です。
  3. 高周波焼入れを行う部品の図面を用意します。
  4. 専門の技術者と図面を元に用途や希望の硬度などを詳細に打ち合わせします。
  5. ワークコイルの選定または製作
  6. 高周波焼入れ
  7. 中間検査
  8. 焼き戻し
  9. 歪取り
  10. 最終検品 

まとめ

  • 高周波焼入れは、高周波を発生するコイル内に鋼材料を入れ表面層のみ加熱し、急冷することで焼入れする処理方法をいいます。
  • コイルによって誘導加熱される部分のみ、焼入れすることが可能です。
  • 他の焼入れ方法と同様に焼き戻しは必要です。
  • コイルの中に鋼材料を入れるだけで焼入れできるので、省スペースで部品加工のラインに組み込むこともできます。加工と熱処理を一つのラインで行うことができます。
  • 高周波によって部分的な加熱で済むので、加熱時間も短く、短い熱処理時間で生産性が高い処理方法といえます。
  • コイルによる誘導電流の制御で、加熱温度や時間を自由にコントロールできるので、自動化も可能です。
  • 短時間での急速加熱・冷却のため、鋼材料の組織分布が不均一になりやすいので、形状の影響からも、硬度が不均一になることがあります。そのため、場所によって、硬度のムラがないかの確認が必要です。
  • 高周波焼入れは、急加熱・冷却で行われるので焼入れでムラが生じ、膨張収縮差で歪みが生じ、割れすいものです。焼き割れの検査は重要な確認項目です。