固溶化熱処理とは|方法と処理の目的

固溶化熱処理とは、冷間加工や溶接などによって発生した内部応力を除去し、劣化した耐食性を向上させるために行われる処理のことをいいます。固溶化熱処理でよく使われる鋼の種類は、オーステナイトステンレス鋼のSUS304などです。今回は種類や特徴、方法などを紹介します。

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固溶化熱処理とは?

合金は、一般的に温度が高くなるほど、金属に加える合金元素は溶け込みやすくなります。そのため、


合金固有の温度に加熱してから急速に冷却すると、低温では析出するはずの合金元素が溶け込んだままになりますが、それを固溶化処理といいます

固溶化熱処理とは、高温にしてから急速に冷却させる処理のことで、大半のオーステナイト系のステンレスに施されます。高温にすることによって、クロム炭化物、窒化物をオーステナイトに固溶させ、その状態から急速に冷却すると、完全なオーステナイト組織を生成します。

製造タイムズ_焼結イメージ

固溶化熱処理の目的

固溶化熱処理の目的は、加工、溶接で生じた内部応力を除去し、劣化した耐食性を復活させるなど、鋼組織の改善のために行う処理方法です。

また、固溶化熱処理は、析出硬化系ステンレスの前処理としても実施されることがあります。
 

固溶化熱処理の特徴

処理温度が高いほど、炭化物はよく固溶しますが、結晶粒が大きくなったり、表面に酸化スケールが生じることがあります。

加熱保持時間は一般に1h/25mmで、薄いものであれば1.5min/1mmを標準としています。また、ステンレスの固溶化熱処理の温度は1,000℃~1100℃で、アルミニウム合金では450℃~550℃です。
 

固溶化熱処理の方法

固溶化熱処理は、ステンレス鋼のSUS304であれば、約1100℃まで加熱し、一定時間保持して全体がオーステナイトになったときに急激に冷却させます。

冷却速度は早いほど良いのですが、早すぎても熱ひずみが生じて変形する可能性があるため、製品の形状、肉厚、寸法などを十分考慮して冷却方法を選択することが必要です。

一般的には、厚みのない物や小物は空冷し、厚みのある物は水冷します。600℃近くでは炭素とCrは結合し、クロム炭化物を生成しやすく、粒界腐食の要因となってしまい、耐食性が著しく低下します。

これを防ぐために600℃付近の温度区域を、できるだけ早く通過させることが必要です。粒界腐食試験を行うためにこの温度範囲に加熱させることを、鋭敏加熱処理といいます。
 

固溶化熱処理が使われるもの

固溶化熱処理が使われるものは、オーステナイト系のステンレス鋼であり、その製品として以下に使用される部品など、さまざまな機器の錆が発生しやすい環境に対して一般的に使用されています。
 

  • 自動車やオートバイの排気系材料
  • モール
  • フレーム
  • ディスクブレーキ

身近なステンレス鋼製品としては、フォークやスプーンといったものがあげられます。

固溶化熱処理でよく使われる鋼種

固溶化熱処理でよく使われる鋼種類は、オーステナイト系ステンレス鋼の18-8ステンレスと言われているSUS304やSUS310Sです。

オーステナイト系ステンレス鋼は、常温でオーステナイトを主な組織とするステンレス鋼で、ステンレス鋼種の中では最も一般的なもので、各種用途に幅広く使用されています。

オーステナイト系は、ステンレス鋼の中でも耐食性が高く、延性に優れ、極低温の環境でも脆弱性は小さいのが特徴です。また、高温の環境でも他のステンレス鋼と比較しても低下の度合いは小さいというメリットがあります。

ただ、切削加工においては被削性でやや劣り、高温度域で一定時間さらされると、鋭敏化という現象がありますから、オーステナイト系の溶接や熱処理では注意が必要です。

SUS304は、18%のCr(クロム)と8%のNi(ニッケル)を含んでいますが、これが溶け込むことによって、はじめて耐食性を発揮でき、溶け込ませるために固溶化熱処理を行います。

また、しっかりと固溶化されていないSUS304は結晶粒界といい、結晶の区切り部分にクロムやニッケルが炭化物として集まり、その部分はクロムやニッケルが薄くなっているために耐食性が低下します。そこから錆が発生しやすくなりますが、この錆のことを粒界腐食といいます。

SUS304はオーステナイト系ステンレスの代表的な鋼で、耐食性、靭性、加工性、溶接性に優れていますので、幅広く用いられています。
 

まとめ

今回は、固溶化熱処理とはどんな処理方法なのか、その目的や特徴、また固溶化熱処理にはどんな材料が使われるのかなども併せて紹介しました。
 

  • 固溶化熱処理とは、高温にしてから急速に冷却させる処理のことで、大半のオーステナイト系のステンレスに施されます。
  • 固溶化熱処理の目的は、加工、溶接によって生じた内部応力を除去し、劣化した耐食性を復活させるなど、鋼組織の改善のために行うものです。
  • 固溶化熱処理の特徴として、処理温度が高いほど、炭化物はよく固溶しますが、結晶粒が大きくなったり、表面に酸化スケールが生じることがあります。
  • 固溶化熱処理の方法は、ステンレス鋼のSUS304であれば、約1100℃まで加熱し、一定時間保持して全体がオーステナイトになったときに急激に冷却させます。
  • 固溶化熱処理が使われるものは、オーステナイト系のステンレス鋼で、その製品として、さまざまな機器の錆が発生しやすい環境に対して一般的に使用されています。
  • 固溶化熱処理でよく使われる鋼種類は、オーステナイト系ステンレス鋼の18-8ステンレスと言われているSUS304やSUS310Sです。

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