ガス切断とは?手順・コツ・資格・原理【はじめての人向け】

本記事ではガス切断を始めたばかりの人、もしくはこれから学習しようとしている方に向けて、ガス切断の概要やどういった原理を利用して部材の切断をしているのか、必要な機材と機材の使用手順や使用する際のコツ、必要な資格について解説しますので参考にしてください。

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ガス切断とは?

ガス切断とは、ガスを使用して部材を切断する切断法です。

主に鋼鉄の切断でもっとも多く使用されており、100年以上の歴史がある切断方法です。ガス溶接は、鉄と酸素の化学反応を利用して切断するため「酸素切断」とも呼ばれています。

使用されるガスは主にアセチレンが主流となっていますが、その他にも以下のガスが使用されることもあります。

  • 天然ガス
  • プロパンガス
  • 水素

ガス切断の原理とは

ガス切断といっても、アセチレンガスに火を付けて鋼鉄を熱しただけでは切れません。ガス切断がどのような原理を利用しているかというと、「酸化・燃焼」という化学反応を利用しています。

「酸化」とは、物質と酸素が化合することを言います。鉄が錆びるのは、鉄が酸化してしまうからです。また、鉄は酸化する時に熱を発生します。身近にある酸化の原理を利用したものに使い捨てカイロがあります。

「燃焼」とは、熱や光を出しながら激しく酸化することを指します。燃焼もまた酸化の一種で、ガス切断は燃焼の原理を意図的に作り出して行う切断方法です。

切断をする時は、あらかじめ母材の切断する部分を800〜900度程度に熱しておく必要があります。熱した時に鉄は酸化しはじめており、熱したところに火を当てながら高純度の酸素を吹き付けると燃焼が発生し、鉄が液体(融解)になります。

酸化した鉄は、通常の鉄と比べて熱して液体になる温度(融点)が低いため、高純度の酸素を当てている部分だけが液体化します。

高純度の酸素が当たっているため、固体の鉄と液体の鉄が接している部分(界面)でも燃焼が起こり、次々に個体の鉄が燃焼して溶け出していきます。

高純度の酸素は液体になった鉄を吹き飛ばす役割も兼ねていますので、また新しい地肌が出てくるのです。

ここまでの一連の流れを火を当てながら繰り返して行うことにより部材の切断ができるのです。

切断したい部材の構造全体には大きな影響を与えず、切りたい部分だけを溶かしきれるのです。

ガス切断の特徴

ガス切断は、大きく分けて次の5つの特徴があります。それぞれについて解説します。

  • 必要機材が少ない
  • 電気を使わない
  • 精度は作業者の熟練度に影響される
  • 切断速度が遅い
  • 母材を温めておく必要がある

特徴1.必要機材が少ない

ガス切断の特徴の一つ目は、他の切断方法に比べると必要な機材が少ないことです。ガス切断に必要なものは、以下の4点です。以下を揃えるだけでガス切断が可能です。

  • トーチ(手持ち式のバーナー)
  • 酸素ボンベとアセチレンボンベ
  • 圧力調整器(酸素とアセチレンの圧力を調整します)
  • ホース(ボンベとトーチをつなぐ役割をします)

特徴2.電気を使わない

ガス切断と他の切断方法(アーク切断、プラズマ切断、レーザー切断)との決定的な違いは、電気を使わないこと。規模の小さな設備で使用できるため、導入費用が安価で済みます。また規模が小さい分点検する場所が決まっており、メンテナンス性も良くなっています。

特徴3.精度は作業者の熟練度に影響される

部材の切断面は荒くなる傾向があるため、作業者の熟練度に影響されます。ガス切断における熟練度とは、以下で判断します。

  • 部材を厚みにより火の強弱と切断スピードを見極めて作業にあたれるか
  • 切断する時に腕のブレがないか

また、ガス切断は直線だけでなく、曲線や円など比較的自由な形状に切断が可能です。ガス切断機を使用することもありますが、まだまだ細部までは対応できないため、熟練の職人が必要とされる場面もあります。

特徴4.切断速度が遅い

ガス切断は他の切断方法(アーク切断、プラズマ切断、レーザー切断)に比べると切断速度は遅くなります。また、ガス切断は部材を切断している時に火花は出ますが閃光は飛びません。

特徴5.母材を温めておく必要がある

ガス切断は切断する母材をあらかじめ温めておく必要があります。温めをせずに切断すると母材全体が熱せられ、熱による変形が起こる可能性があります。その際の熱変形の大きさは、プラズマ切断とレーザー切断よりも大きくなっています。

※熱変形とは部材を熱することにより部材が伸縮することをいいます。

どのようなものを切断するの?

ガス切断で使用される部材は鋼鉄のみです。

鋼鉄ならばプラズマやレーザーでも切断は可能ですが、鋼鉄の切断にはガス切断が用いられます。

その理由としてガス溶接はプラズマ切断やレーザー切断に比べて、厚い鋼鉄を切断することに特化しています。ガス切断に最適な部材の厚みは、50mm程でそれ以下になると他の切断方法が向いています。また、ガス切断は数mm程度の薄いものから3,000mmの分厚いものまで切断可能です。厚いものに対応した機材であれば、原理上どんなに厚くても切断可能です。

またステンレスやアルミニウム、真鍮などの酸化しにくい部材は、ガス切断の原理で考えると不向きです。さらに銅の場合は熱伝導率が高く、「切断」というより「溶断」に近くなってしまうため不向きと言えるでしょう。

ガス切断の手順

ここからはガス切断の手順について解説します。

ガス切断を行うまえに安全確認を徹底することが大事です。服装、周りに燃えやすいものがないか、トーチ、ホース、ボンベに異常はないかも目視で確認しましょう。

またガス切断には、酸素ボンベと、アセチレンボンベの2本が必要です。背が高く黒いボンベが酸素ボンベ、小さい茶色のボンベがアセチレンボンベです。アセチレンボンベには液体ガスが入っているため、ボンベを寝かせて使うことは絶対やめましょう。

アセチレンボンベは、以下に注意する必要があります。危険物ですので適切な方法で取り扱いましょう。

  • 高温になる機器のそばに置かない
  • 直射日光の当たる場所に置かない

手順1.ガス切断の機器の準備

まず服装の準備をします。ガス切断の前に次のものを揃えましょう。
・前掛け
・革手袋
・保護マスク
・安全靴等
服装の準備が終わったら、次は機材の準備です。火をつけるまでの機材の準備は、以下の3点です。

  • ガスボンベとアセチレンボンベに圧力調整器を取り付ける
  • ホースとトーチをつなぐ(「カチッ」という音がなるまでしっかり差し込んでください)
  • ボンベの開栓、ダイヤルを時計回りに回して圧力調整

酸素ボンベの準備が終わったらアセチレンボンベも同様に準備します。ここまで終わったら石鹸水をホースに吹きかけて、ガス漏れがないかを点検します。準備する時は何よりも確認が重要です。

危険物を取り扱っているという意識を持ちましょう。

手順2.ガスを出し火をつける

トーチには以下の3つのバルブがあります。まず、この3つのバルブが閉まっているか確認しましょう。

  • 燃料ガスバルブ
  • 予熱酸素バルブ
  • 切断酸素バルブ

トーチの燃料ガスバルブ回してアセチレンガスを出します。「シュー」と音がなっているならばアセチレンガスが出ていますので、専用の着火材で火をつけましょう。火をつけるときは専用の着火材「点火ライター」を使用してください。

手順3.火を調節する

予熱をする火をつくるため予熱酸素バルブを開きます。火の目安としてトーチの噴出口から出ている青い火が1cmくらいの長さになるまで調節してください。

手順4.鉄などに近づける

火の調節が終わったら、母材の切断をする箇所を熱します。火を当てている箇所がが赤くなってきたら、そのまま火を当てながら切断酸素バルブを開きましょう。酸素を当てた瞬間から燃焼が始まりますので、切断する形に沿って火口を移動させましょう。

切断が完了したら切断酸素バルブは逐一閉じてください。

手順5.消火から片付けまで

大まかに手順1から手順4までを逆の手順でやっていきます。

ポイントとして、アセチレンボンベのダイヤルまで閉め終わったら圧力調整器のバルブを開いてトーチの3つのバルブも開きます。圧力調整器とトーチのバルブを開くことによりホース内にあるアセチレンガスと酸素を完全に抜きます。圧力調整器の針が「0」になったのを確認してからホースとトーチを取り外していきます。

ガス切断のコツは?

ガス切断をする際のコツは以下2点です。

  • ガス切断は、切断する鋼鉄の厚みによって火力とスピードを調節することが大事。
  • 切断時は火口を進行方向に対して少し傾ければ「パンッ」と音が鳴りません。

▼薄いものを切断する時のコツ
薄いものを切断する時は、火力を弱くして素早く切ることです。板厚が薄いと母材全体に熱が伝わりやすくなるため、火力が強すぎたり、切断スピードが遅すぎるとうまく切断できずに溶けたように引っ付いた状態になります。母材に対して火を垂直にあてるより、火を進行方向に傾けて火を当てることで、擬似的に板厚が増します。

▼穴を開ける時のコツ
部材に穴を開ける時は、斜めに穴を開けてから火口を垂直に戻して切断に入ると綺麗に切断できます。

▼鉄筋を切断する時のコツ
鉄筋を切断する時は、予熱をして端から飛ばすようにすれば上手く切断できます。

ガス切断に必要な資格

ガス切断をする上で必要になる資格は「ガス溶接技能講習」です。ガス溶接技能講習を受けると、ガス溶接技能講習修了証が交付されます。また、「ガス溶接技能講習」は18歳以上であれば誰でも受講できます。

「ガス溶接技能者」や「ガス溶接技術者」と呼ばれており、資格取得してから実務経験を積むとガス溶接作業主任者免許試験の受験資格を得られます。そのため更なるスキルとキャリアアップが可能です。
ガス溶接技能講習は講座形式となっています。技能講習は2日間の日程で行われ、講座は学科・実技の講習を受けます。

学科講習は、講習の最後に試験を受ける決まりとなっており、6割以上正解が合格の条件です。

学科は次の3科目となっています。科目ごとにも4割以上の正解が必要です。

  • 法令
  • 酸素やガスの知識
  • 施設、設備の構造や取り扱い方法

実技も業務を想定した作業を受講者が行いますので講習内容をしっかり理解しておきましょう。ガス溶接技能講習を受けるにあたり、基礎知識がなくても全く問題ありません。必要なことを講習内で学べます。合格率は発表されていませんが、試験の内容も講習をしっかり聞いていれば比較的簡単です。

ガス溶接技能講習を必要とするのは、以下に関わる業務です。

  • 金属加工
  • 切断
  • 溶接

具体的な勤務先は造船所、自動車工場や建設現場などが主で、まれに鉄工所などもあります。

まとめ

ガス切断の特徴や方法について解説しました。資格を取るのは比較的容易ですが、ガス切断では危険物を扱います。扱い方を間違えれば大きな事故につながります。しっかりとガス切断に関しての正しい知識と理解を深め、作業をしましょう。

【ガス切断の特徴】

  1. 必要機材が少ない
  2. 電気を使わない
  3. 精度は作業者の熟練度に影響される
  4. 切断速度が遅い
  5. 母材を温めておく必要がある

【ガス切断の手順】

  1. ガス切断の機器の準備
  2. ガスを出し火をつける
  3. 火を調節する
  4. 鉄などに近づける
  5. 消火から片付けまで

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