二相ステンレスとは

二相ステンレスは高強度と高耐食性が特徴です。薄肉・軽量化でトータルコストダウンが可能になるとともに、Ni価格高騰時にも有利な鋼材になります。ステンレスの種類や規格、機械的性質、高温特性や、溶接、曲げなど加工方法についても解説しています。SUS304など一般的なステンレスについても記載しています。

二相ステンレスとはのイメージ

ステンレスについて

二相ステンレスを紹介するにあたってまず、ステンレスについて簡単に触れておきます。二相ステンレスについてのみ興味のある方は「二相ステンレスについて」まで、読み飛ばしていただいて結構です。

ステンレスは鋼にクロム(Cr)を10.5%以上含むもので、表面にCrの不動態皮膜と呼ばれるごく薄い酸化層ができることによって、鉄のさびを防ぐものです。非常に薄い膜なので、金属光沢が見えています。耐食性能の向上のため、Cr以外にニッケル(Ni)やモリブデン(Mo)を含むものがあります。

鋼の相について

ステンレスには大きく分けて以下の3種類があります。
 

  • マルテンサイト系
  • フェライト系
  • オーステナイト系


これら3種類を説明するにあたり、鋼の相について若干解説します。

一般普通鋼は高温ではオーステナイトですが、常温ではフェライト主体の相になります。
また、高温のオーステナイトから焼入れるとマルテンサイトになります。

ステンレスも成分と温度によって安定な相が変わります。フェライト相とは体心立方格子と呼ばれる結晶構造をした相、オーステナイト相とは面心立方格子と呼ばれる結晶構造の相です。

マルテンサイトは少し複雑なのですが、オーステナイトを急冷した時に原子のずれが生じて、体心立方格子の一部に炭素が入り込んで一方向に伸びたような結晶構造になります。結晶構造とは原子の規則的な並び方を言います。鋼中に含まれる成分とその鋼材の温度によってその時点での安定な相が決まります。熱処理の際などに鋼材の温度を上げると、常温の相とは異なる相に変化する場合があるのです。

温度を上げる場合も下げる場合にもあるこのような変化を相変態と言います。

状態図と呼ばれるものを見れば、組成と温度からどんな変化が生じるかわかるのですが、多元系合金であったり冷速を考慮したマルテンサイトのような非平衡のものまではカバーできてはいません。

3種類のステンレスの特徴

マルテンサイト系ステンレス

マルテンサイト系ステンレスは鋼に13%程度Crを含むもので、高温のオーステナイトから焼き入れすることで、硬さの高いマルテンサイト組織にしているものです。

マルテンサイト系ステンレスは炭素(C)がやや高く、Cr添加量が13%程度と比較的少なく他の合金元素も少ないこともあって、一般の焼き入れ鋼に近い現象になります。焼入れ・焼戻しにより強度が高く、靭性も改善されます。一般炭素鋼と同じ強磁性のため磁石にはつきますし、比熱・線膨張係数・熱伝導率などの物理的性質はフェライト系ステンレスに近いものになります。耐食性は一般的にはCr含有量が少ないこともあり、限定された環境に限られます。硬さを生かして刃物などにも使われます。

フェライト系ステンレス

鋼にCrを17%程度大量添加すると、高温でもフェライトが安定になり、常温でもフェライトのままになります。常温でフェライトとCrの炭窒化物の混合になっています。これが、フェライト系ステンレスです。Crはフェライトを生成しやすい傾向があります。

フェライト系ステンレスは高価なNiが含まれていないので、安い代わりに耐食性は劣るというイメージがあります。しかしながら、フェライト系ステンレスも改善が進み、モリブデン(Mo)添加等により孔食や隙間腐食に有効なものもあります。また、C、Nを低減した高純度フェライト系ステンレスは耐食性とともに加工性も改善し、用途を広げています。フェライト系ステンレスは、強度はそれほど高くありませんが、熱膨張係数は一般炭素鋼より低く屋根材などにも使われます。また、フェライト相であるため、磁石につきます。

オーステナイト系ステンレス

フェライト系の高Cr鋼に、さらにニッケル(Ni)などを8%程度以上大量に添加すると高温でも常温でもオーステナイトのままになります。これが、オーステナイト系ステンレスです。Niはオーステナイトを生成しやすい傾向があります。最も汎用的な18%Cr-8%NiのSUS304を中心として最も広く使用されているステンレスです。

オーステナイト系ステンレスは、耐食性、延性、靭性、加工性、溶接性などに優れています。一方、応力腐食割れが起きやすい、切削加工がしにくいなどの欠点があります。
 
改良が繰り返され、種類も多様なので、用途に合った鋼材を選定する必要があります。
 
これら以外に、析出硬化系ステンレスがありますが、ここでは省略します。

二相ステンレスについて

ここまで、ステンレスについて簡単に紹介するつもりが、かなり長くなってしまいました。ここからいよいよ二相ステンレスについてです。

二相ステンレスはオーステナイト・フェライト系ステンレスのことをいいます。文字通り、オーステナイト相とフェライト相の二相がほぼ半分ずつ混在したステンレスのことを言います。

オーステナイト系ステンレスとフェライト系ステンレスの長所を併せ持ったステンレスとも言えます。先にステンレスは大きく3種類と書きましたが、析出硬化系と、これを加え、5種類ある事になります。

成分・熱処理

オーステナイト系ステンレスの18%Cr-8%Niに比較し、Crを増やして、Niを減らすことでフェライトを生成しやすくしたものが二相ステンレスとなります。フェライト系ステンレスにCrを増やしてNiを加えたといってもいいかもしれません。成分的には25%Cr-5%Niのような成分です。

表1に主要成分を表示しています。高温ではフェライトですが、加熱圧延するような温度では二相組織であり、常温でも二相組織になります。CrよりもNiの方が高価な元素なので、コストダウンのためには、Niを減らしたいのですが、この二相ステンレスはオーステナイト系に対し、この方向に沿ったステンレスと言えます。

これらの元素以外にMo、Nなどが添加されます。MoはCrと同じフェライト生成元素で、耐孔食性や耐隙間腐食性を向上させる効果を持ちます。ただし、Niと同じく高価な元素であること、有害な金属間化合物が生成することにより添加量は制約されます。

Nはオーステナイト生成元素であり、Niの代替でコストダウンに寄与します。Moと同じく耐孔食性や耐隙間腐食性の向上効果があるとともに、強度上昇に効果があります。
 
二相ステンレスは圧延や成形後、950~1100℃に加熱後、急冷する固溶化熱処理が施されます。これにより、組織バランスを最適化靭性や耐食性を改善鋼種本来のパフォーマンスを発揮することができます。

種類・規格

二相ステンレスに関しても各種改善がなされ細分化が進んでいます。

JISでは6種類の規格が制定されています。この6種類はリーン二相鋼2種、汎用二相鋼3種、スーパー二相鋼1種に分けられています。汎用二相鋼から経済性を追求したのがリーン二相鋼、耐孔食性を追求したのがスーパー二相鋼になります。ASTMなどではもっとたくさんの種類が規格化されています。

二相ステンレスの分類

耐食性

二相ステンレスは、Cr含有量が高いため、耐食性は良好です。成分のところでも書きましたが、Mo、Nの添加により孔食や隙間腐食に対しても、汎用のオーステナイト系ステンレスより優れています。二相ステンレスの孔食に及ぼすNの影響については、二相への成分の分配も考慮した内容が、下記1)に解説されていますので、興味のある方は参考にしてください。

耐孔食指数としてはいろいろ提案されていますが、二相ステンレスでは下記の式が好ましいように思います。大きいほど孔食が起こりにくいことになります。

耐孔食指数PRE=Cr+3.3Mo+30N-Mn

また、二相ステンレスは、応力腐食割れについて、汎用のオーステナイト系ステンレスより発生しにくくなっていますが、低pHで塩化物が多く、温度が高い場合には起こりえますので、注意は必要です。

1)遅沢浩一郎:材料と環境,No.47,p.561(1998)

機械的性質

二相ステンレスの引張強さに関しては、マルテンサイト系ほどではありませんが、表2,3に示すように、フェライト系やオーステナイト系より降伏強度、引張強度が非常に高く、薄手化が可能になります。

伸びはオーステナイト系の方が高く変形はしやすいですが、通常の曲げ加工等に対しては十分なレベルです。

靭性は、規格化はされていませんが、オーステナイト系が非常に良好な低温靭性を示すのに対して、そこまでではありませんが、低温用途でなければ問題になることはありません。

表2 二相ステンレスの機械的性質
ステンレスの機械的性質

高温特性

二相ステンレスはフェライト系と同じように、475℃脆性が生じます。475℃脆性とは、この温度前後でCr含有量の高いフェライトと低いフェライトの2つの相に分離し、靭性の低下を招きます。二相ステンレスではフェライトを含んでいるのでこの事象が起こるのです。

また、オーステナイト系は室温の強度は低い代わりに600℃程度まで強度低下が少ないのに対して、二相ステンレスは、高温での強度低下が大きいので、使用温度は350℃程度までに限定されます。

物理的性質

二相ステンレスの物理的性質は、オーステナイト系とフェライト系の中間的な性質になるものが多いです。熱伝導率や線膨張係数はこの類になり、オーステナイト系より熱は伝わりやすいが、線膨張しにくくなります。

この線膨張しにくいという性質は溶接時の熱による変形を軽減しやすいということにもつながります。また、フェライトを含むので、全体としては強磁性を示し、磁石につきます。比抵抗は合金元素量によりますので、二相系が高くなります。

ステンレスの物理的性質

切断・曲げ・溶接加工

切断加工

二相ステンレスは、強度も高く、加工硬化もするので、切削はしにくい鋼材になります。オーステナイト系などでは、切削性を良くするために硫黄(S)やセレン(Se)などを添加した快削ステンレスもありますが、2相ステンレスでは存在していないようです。スーパー二相よりもリーン二相の方が若干加工し易いようではありますが、二相ステンレスは、難切削を前提に、加工条件を設定する必要があるといえます。

曲げ加工

二相ステンレスは、強度が高く、加工硬化もするので、曲げ加工も荷重は高くなりますが、冷間で曲げ加工自体は可能です。


熱間加工の場合は、鋼種により異なりますが加工温度を950~1230℃とすることで、低荷重で良好な加工性を示します。熱間加工後は固溶化熱処理が必要になります。

溶接加工

二相ステンレスはオーステナイトとフェライトの絶妙なバランスで成り立っていますので、溶接部が熱影響により組織変化すると、靭性や耐食性は悪くなる傾向がありましたが改善が進められています。


溶接熱影響部(HAZ)については、溶融線近傍は高温のフェライト相からの組織変化になりますが、母材にNを高めることで、オーステナイトが生成しやすくしています。入熱が小さく、冷速が早すぎるとオーステナイトが生成する時間がなく二相となりません。

一方、溶融線から少し離れた母材側のHAZでは入熱が大きく冷速が遅いと金属間化合物やCrの炭窒化物が析出して靭性や耐食性が落ちてしまいます。これら両方のバランスをとるために、最適な入熱範囲(冷速)が存在することになります。

溶接材料による溶接金属については、この適正な冷速で、フェライトからオーステナイトが半分ほど生成するように、また、有害な金属間化合物が生成しにくいように成分設計がされています。

以上より、二相ステンレスの溶接には、専用の溶接材料の使用と、入熱、パス間温度の管理が重要となります。

実際の溶接の場合、詳細は、溶接材料メーカーに確認するのがいいでしょう。

適用用途例

二相ステンレスは、強度・靭性が高く、耐食性・耐孔食性・耐応力腐食割れ性も良好で、Ni量も少ないことからコストパフォーマンスも良いものです。

まだ、ステンレスの中で使用比率はごくわずかですが、適用範囲の拡大が期待できる分野です。二相鋼の中でも特に高耐食なスーパー二相ステンレスは海水環境での適用が多くあります。

リーン二相系は汎用なSUS304の代替需要をはじめ、ダム、水門、堰、食品工場などの用途に適用が広がっています。

まとめ

以上、二相ステンレスについて書いてきました。

二相ステンレスは高強度高耐食性が特徴で、薄肉・軽量化でトータルコストダウンが可能になるとともに、Ni価格高騰時にも有利な鋼材になります。

まだ認知度は低いですが、今後拡大が期待される分野でもあります。

二相ステンレスの中も多鋼種あり、実際の使用にあたっては鉄鋼メーカー、販売店の指導を受けて正しく使うことが重要と思います。

参考文献

・Practical Guidelines for the Fabrication of Duplex Stainless Steel:IMOA(2014)
・二相ステンレス鋼の発展と最近の動向:小川和博 WE-COMマガジン、No.17(2015)
・ステンレス鋼の特性と使用上の要点:遅沢浩一郎 防食センターニュースNo.048(2009)