溶材とは?種類から適切な溶材の選び方までわかりやすく解説

溶接の際に加える添加材料である溶材について詳しく解説します。溶材は母材との不連続箇所になる為、後になって破壊現象の起点になるので適切に選ぶ必要がある重要なものです。この記事を読むことで、正しい溶材の知識がつき、溶接で失敗しないようになります。

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溶材についてお調べでしょうか?

溶材とは溶接材料の略称で、溶接を行う際に必要な材料です。

溶材は目的にあわせて60種類以上あり、適切なものを選ぶ必要があります。

溶接を行う上で適した溶材を知らなければ、破壊現象にもつながるので注意が必要です。そこで今回の記事では、溶材の選び方から注意点まで詳しく解説しています。

この記事を読んで正しい溶材の知識をつけ、溶接を成功させましょう。

溶材とは?

溶材とは溶接を行う際に必要な材料です。

鋼材と鋼材をくっつける、接着剤のような役割を果たします。

1ー1.破壊現象の起点になり得る【適切な溶材を選ぶ必要あり】

溶材は母材に対して適したものを選ばなければ破壊現象に繋がります。

溶接時に母材と溶材が凝固することで溶接金属となり、衝撃などを与えると破壊現象の起点となるため注意が必要です。

いくら母材が良くても溶接金属が適したものでなければ溶接部分の質が落ちます。

溶接金属を生成する溶材は母材に近い材質を選びましょう。

溶材の種類【特徴を解説】

溶材にはJISで決められているものとして64種類あります。

以下でよく使われる6種類の溶材について、特徴を見ていきましょう。

2ー1.被覆アーク溶接棒

被覆アーク溶接棒は銅の棒にフラックスが塗装されている溶材です。

フラックスは、はんだ付け促進剤を指します。

被覆アーク溶接棒は耐風性に優れており、溶接時にフラックスが分解してガスが発生するのでシールドガスが不要です。

溶材を選ぶ際、例えばステンレス銅を溶接する際はステンレス銅溶接棒を選んでください。

母材ごとに、どの規格を使うかが決まっています。

母材ごとにどの規格を使うかが決まっていますので、下表に適した規格をまとめました。

母材規格規格名称
ステンレス鋼JIS・Z3221溶接用ステンレス鋼溶加棒及びソリッドワイヤ
モリブデン鋼JIS・Z3223モリブデン鋼及びクロムモリブデン鋼用被覆アーク溶接棒
クロムモリブデン鋼JIS・Z3223モリブデン鋼及びクロムモリブデン鋼用被覆アーク溶接棒
銅・銅合金JIS・Z3231銅及び銅合金被覆アーク溶接棒
硬化肉盛りJIS・Z3251硬化肉盛用被覆アーク溶接棒
鋳鉄JIS・Z3252鋳鉄用被覆アーク溶接棒、ソリッドワイヤ、溶加棒及びフラックス入りワイヤ

2ー2.ティグワイヤ

ティグワイヤはTig溶接法に使用される溶材です。

ティグワイヤはビード外観や溶接金属の機械的性質が優れているので、パイプや補修溶接に多く使用されています。Tig溶接法はステンレスや非鉄金属のものに使用して、スパッタやヒュームが発生しません。

スパッタとはガス溶接やアーク溶接時に飛散する微粒子のことです。

ヒュームとは溶接時に発生する蒸気が凝固したり、化学反応によって生じた固体粒子が空気中に浮遊した物になります。

ティグワイヤはTig溶接法に使われ、パイプや補修溶接に適した溶剤として覚えましょう。

2ー3.ガスシールドアーク用ソリッドワイヤ

ガスシールドアーク用ソリッドワイヤは、日本で最も多く使用されている溶材です。

主に建築、造船、公共工事、トラック修理などに使われています。ロボットと組み合わせて使用することが多く、半自動溶接に使用される溶材です。

溶材によっては銅メッキが施されており、溶接時に発生するアークという高温で強い光の発生を安定させています。

2ー4.ガスシールドアーク用フラックス入りワイヤ

ガスシールドアーク用フラックス入りワイヤは、中心部にあるフラックスを薄い銅板で巻いた溶材です。

こちらも銅メッキが施されているものがあります。ソリッドワイヤと比べてスパッタ発生量が少なく溶接速度も早いですが、ヒューム発生量が多くワイヤの価格が高いです。

主に造船や橋に使用されています。

2ー5.サブマージアーク溶接用ワイヤ

サブマージアーク溶接用ワイヤは、所定成分を含有した太い針金状の溶材です。

所定成分は下記の通りになります。

材質質量
FのCaF2換算値2~22質量%
MgO8~28質量%
NaのNa2O換算値及びKのK2O換算値のうち少なくとも一つ以上の合計0.5~6.5質量%
MnのMnO換算値2~22質量%
FeのFeO換算値0.5~6.5質量%
SiO212~32質量%
Al2O316~36質量%
Zr020.4~10質量%
水溶性SiO21質量%未満(0質量%を含む)

主にフラックスと組み合わせて溶接しますが、溶材によってはワイヤの中にフラックスが含まれているものもあります。超高電流の溶接が可能であり高能率です。

2ー6.サブマージアーク溶接用フラックス

サブマージアーク溶接用フラックスはサブマージアーク溶接用ワイヤと違い、粉状の溶材で、ドラム缶や袋に入って販売されています。

母材に異種金属を溶接する際に使用され、ビード幅が広いため高能率で溶接することが可能です。

ビードとは接合面にできた盛り上がり部分のことを指します。大入熱溶接用にはボンドフラックスを使用し、高速溶接用には溶融フラックスを使用しましょう。

溶材の選び方【鋼材のカタログ確認が必須】

ここまで溶材ごとの性質についてまとめました。次に、溶材の選び方を解説いたします。

3ー1.被覆アーク溶接棒

被覆アーク溶接棒は9種類の被覆材があり、被覆材によって溶接部の特徴が異なるので目的にあった溶接棒を選んでください。

下記の表は被覆アーク溶接棒の被覆材の種類と説明です。

被覆材の種類説明
イルミナイト系溶接金属と機械的性質がよく、溶接性、作業性ともに良いです
ライムチタニヤ系低水素系の次に機械的性質が良くて、作業性も良いです
高セルローズ系吸湿しやすくてスパッタリングしてしまうことが多いが、立向き下進溶接など高速で溶接する際に適します
高酸化チタン系薄板溶接に適しており、ビード外観も良いです
低水素系高酸化チタン系よりアークが不安定ですが、溶接金属の機械的性質がいいため割れやすい材料や重要部剤の溶接に適します
鉄粉酸化チタン系アンダーカットを発生させることなく大脚長のすみ肉溶接ができます
鉄粉低水素系低水素系溶接棒より溶着量を高めにすることで、アークの安定性が高められます
鉄粉酸化鉄系作業性、作業能率が良く、グラビティ溶接用として利用されます
特殊系上記の被覆材に属されず新たに開発されたものなど、独自の性質を持つ被覆材のことです

被覆材ごとに性質が異なるので溶接を行う際は、母材に適した被覆アーク溶接棒を選んでください。

3ー1ー1.【低水素系E4316】低温割れ対策に最適

低水素系E4316は水素量が少なく、機械的性質もよいので低音割れ対策に最適な溶材です。

そのため、強度が必要な部位や硬くて割れやすい場所に使用されます。しかし、溶接開始時に小さな穴ができやすく、アークが消滅して溶接が中断しやすいです。

問題なく溶接するには訓練が必要となります。

3ー1ー2.【高酸化チタン系E4313】薄板の溶接向け

高酸化チタン系E4313は溶け込みが浅いので、薄板の溶接に向いています。アークが安定しており、スパッタ発生量も少なく、ビード外観もよくできるからです。

また、低裾系E4316と違い機械的性質は劣るので、強度が必要な場所の溶接には適しません。

3ー2.ガスアーク用フラックス入りワイヤ

ガスアーク用フラックス入りワイヤには全姿勢溶接に適したものと、下向きや水平すみ肉溶接に適した溶材があります。

次に紹介する4つの溶材は、下向きや水平すみ肉溶接に適した溶材です。

3ー2ー1.【DW-Z100】高電流での全姿勢溶接が可能

DW-Z100は、立向き下進を含む全姿勢溶接が可能なチタニヤ系フラックス入りワイヤです。

溶接速度も早く高電流溶接が可能なため、様々な溶接姿勢が必要な溶接に対して高能率で作業ができます。

スパッタが少なくビード外観やスラグ剥離性が良好で、ソリッドワイヤ並みにヒューム発生量も少ないのが特徴です。

3ー2ー2.【DW-Z110】水平すみ肉溶接でビードの波が綺麗

DW-Z110はスラグ剥離性に優れており、平坦で並目が揃った光沢ビードができます。

下向き溶接や水平すみ肉溶接向きの溶材ですが、全姿勢溶接も可能です。スパッタもヒュームと共に発生量は少なく、赤錆や防錆ニスがついている銅板などにも溶接が優れています。

そのため、鉄骨や鉄塔などに最適な溶材です。

3ー2ー3.【DW-100V】立向き上進溶接向け

DW-100Vは高電流、高速溶接が可能で立向上進溶接に向いている溶材です。他のワイヤと比較しても立向上進溶接で凹凸のない、幅の揃った良いビード外観ができます。

また、半自動溶接やロボットと組み合わせることで高能率作業を行うことが可能です。

3ー2ー4.【MX-100T】メタル系向け

MX-100Tは炭酸ガスアーク溶接メタル系フラックス入りのワイヤで、メタル系の溶接に適しています。

低電流域溶接に優れ薄板溶接が安定しており、ソリッドワイヤに比べ溶け落ちが生じにくいです。

ショートアークによる全姿勢溶接が可能で低電流域溶接に優れているので、薄板溶接が安定してできます。

板厚が0.8mm程度の鋼板も容易に溶接できるので、自動車や産機などで薄板の突合せや、すみ肉溶接などに最適です。

溶材を扱う上での注意点

これまで、溶材の性質や選び方を説明しました。

次に、溶材を購入後に保管する方法、使用時の注意点を確認しましょう。

4ー1.被覆アーク溶接棒

被覆アーク溶接棒は、使用前に正しく管理しなければ製品が劣化します。

溶接前の管理方法に注意が必要なので、以下で見ていきましょう。

4ー1ー1.溶接前の適切な乾燥が重要

被覆アーク溶接棒には高い吸湿性があるため、溶接前に適切な乾燥を行うことが重要です。

管理する際は、雨や雪が直接当たらない室内で保管し、風通しの良い場所で保管してください。

管理を怠ると溶接中に吸湿した被覆材から水素が発生してしまい、脆化して熱影響部に小さな割れが生じます。

水素系溶接棒は、焼入れ処理に固くなりやすい銅の処理に使用するため注意してください。

徐々に欠陥が広がり、利用者が使用している時に壊れてしまいます。

使用する前は、下表の温度で乾燥させてから溶接してください。

種類温度時間
低水素系以外の溶接棒70~100℃30~60分
低水素系溶接棒300~350℃30~60分

乾燥させたあとも、放置していたら吸湿を行うので早めに使いましょう。

常温放置の場合、低水素系溶接棒は2~4時間、それ以外は6~8時間以内に使う必要があります。

4ー2.ガスアーク用ワイヤ

ガスアーク用ワイヤは衝撃に弱い素材で固着しているため、運搬時に注意が必要です。

4ー2ー1.運搬時の取り扱いにはスプール割れに注意する

ガスアーク用ワイヤのスプールは合成樹脂でできているため、衝撃に弱いのでスプール割れに注意してください。

スプールとは、溶接を行う際に溶接ワイヤをスムーズに引き出せるようにしてあるワイヤの巻き枠のことです。

運搬時に投げたり落としたりして変形した場合は、ワイヤが食い込んでしまいます。

他にもスプールが割れると溶材の供給が困難になり使用できなくなりますので、衝撃を与えないように注意してください。

4ー3.溶接材料全般

溶材は正しく管理しないと、溶接時に安定した作業ができません。

管理状況が悪いと、溶材にさびが発生するので正しく管理してください。

4ー3ー1.さびの発生しやすい場所での保管は避ける

溶材は湿度が高い場所での保管を避けてください。

吸湿性の高いものが多いため、さびる可能性があります。

そのため、保管時は雨水などが直接吹き付ける場所で保管してはいけません。

また、床からも吸湿するので、パレットやすのこなどで直接地面に触れることなく、壁からも離して保管してください。

不安な方は鋼材のプロに相談するのもアリ!

ここまで読んでみて適切な溶材を選べるか不安な人はプロに相談するのもアリです。こちらでは、オススメの鋼材会社を紹介します。

5ー1.クマガイ特殊鋼株式会社【溶接加工まで対応可能】

クマガイ特殊鋼株式会社は100年以上の歴史があり、溶接加工に対する経験も知識も豊富です。

素材の仕入れから、設計、加工、検査まで行ってもらうことができます。

溶材の選び方がわからなかったり、溶接に自信がない場合はクマガイ特殊鋼株式会社に相談しましょう。

まとめ

溶材についてご紹介いたしました。

溶材には様々な種類や使用方法、管理方法があります。母材ごと適した溶材を選ばないと製品の質の低下に繋がりますので、本記事を参考にしてください。

溶材に衝撃を与えたり、サビたりすると溶材は使えなくなってしまいます。

もし、溶材の選び方や溶接に自信がない場合はクマガイ特殊鋼株式会社に相談しましょう