焼きなまし|焼き入れなど熱処理の仕組みや種類
熱処理には焼き入れ、焼き戻し、焼きなまし、焼きならしなど、いくつかの種類がありますが、今回は英語でアニーリングと呼ばれている焼きなましについてまとめました。焼きなましは、組織を軟化させて展延性を高めるための熱処理ですが、その特徴や用途に関しても紹介します。
目次
熱処理とは?
熱処理とは、ある一定の温度以上に金属を加熱したあと、冷却することでもとの性質とは違ったものに変化させることをいい、英語でHEAT TREATMENTと表記します。
熱処理は、焼き入れ、焼きもどし、焼きなまし、焼きならしといった種類に分けられますが、いずれも金属の組織を変化させて、理想の金属に変えるために行います。
熱処理の仕組み
鋼はある一定の温度に達すると、その組織に変化が起こります。この鋼の組織の変化を変態といい、変態が起こる温度のことを変態点といいます。
鋼によっては構成する炭素などの素材の含有量が違いますが、その含有量によって変態点は変わります。
一般熱処理は、「焼入れ」「焼き戻し」「焼きなまし」「焼きならし」といったものがあり、特殊熱処理は「サブゼロ処理」「固溶化処理」などがあります。
特殊熱処理は、一般熱処理で加えた材質をさらに改善する目的で行うものです。
その他にも、表面熱処理がありますが、内部組織をそのまま材料の表面のみの組織を変態させます。表面熱処理の種類には、「表面硬化熱処理」と「表面改質熱処理」の2種類に分けられます。
表面硬化熱処理は、加熱し、冷却することで硬化させる熱処理であり、蒸着させることで表面を変態させます。
熱処理の種類
一般的な熱処理の種類には、以下の4つの工程があります。
- 焼きなまし
- 焼きならし
- 焼き入れ
- 焼きもどし
焼きなまし
熱処理の中に、焼きなましといわれる工程がありますが、焼きなましは英語でアニーリングと呼ばれ、アニーリングとは加工硬化による内部のひずみを取り除き組織を軟化させて展延性を高めるための熱処理です。
焼きなましで最もよく使われているのが、完全焼きなましであり、単に焼きなましといえばこの完全焼きなましのことを指すことが多いです。
焼きならし
焼きならしは、鋼を一定の高温に加熱したあと、一般的には空気で冷却し、金属組織の結晶を均一化させ、機械的性質の改善や切削性を向上させるために行います。
焼き入れが鋼を硬くする処理であり、焼きなましが鋼を軟らかくするための処理であるのに対し、焼きならしは、鋼に硬さと粘り強さをあたえる処理です。
焼き入れ
焼き入れとは、金属を一定の高温状態から急激に冷却させることで金属を硬化させるために行う熱処理のことで、焼入れと表記することもあります。
金属組織がオーステナイト組織(鉄に炭素や合金元素などの他の元素が固溶したもの)に変化するまで、鉄鋼材料を加熱し、その後急激に冷却することでマルテンサイト組織(オーステナイトから急激に冷却することで得られる組織)を得るための熱処理をいいます。
焼き入れを行うことで、鋼材を硬くし、耐摩耗性、引張強さ、疲労強度などを向上させることができます。
焼き戻し
焼き戻しとは、焼き入れや溶体化処理されている不安定な組織の金属を、適切な温度に加熱、温度保持することをいいます。焼き戻しは、組織の変態や析出を進め、安定的な組織に近づけるための熱処理の一種です。
焼き入れしたままでは、鋼は硬いけれど脆くなっていますから、靭性を回復させ、粘り強い鋼にするために焼き入れのあとに、焼き戻しを行います。
その他
その他の熱処理の中には、析出硬化という種類があります。析出硬化とは、固溶化熱処理のあと時効硬化(金属材料が時間の経過とともに変化すること)を人工的に行うことです。
たとえば、析出硬化系ステンレス鋼は、特定の元素を添加して析出硬化を起こさせ、高強度化、高硬度化させたステンレス鋼の一つで、析出硬化型ステンレス鋼とも呼ばれています。
焼きなましの特徴やメリット
熱処理の種類である焼きなましには、さまざまな特徴やメリットがあります。それぞれについて以下に解説します。
焼きなましの特徴
工具や機械部品などを製作するためには、切削などがしやすい鋼であることが理想的です。そのためには、鋼をある程度軟らかくしなければなりません。
焼きなましは、鋼を軟らかくするために必要な工程です。
焼きなましは、焼入れとは違い、素材を軟らかくすることを目的としています。焼きなましをすることによって、冷間加工や切削加工の加工性を向上させることができます。
また、製品加工の歪や応力除去を目的としています。
焼きなましを行うには、まず加熱をしますが、拡散や再結晶を伴いますから、加熱時間は多少長めになることが多いです。
また、冷却では一般に炉中でゆっくりと冷却します。作業時間を短縮するために空冷や水冷を使いますが、素材によって使い分けられています。
焼きなましの用途
焼きなましには、用途や目的によって「完全焼きなまし」「球状焼きなまし」「応力除去焼きなまし」「拡散焼きなまし」「現状化焼きなまし」「等温変態焼きなまし」といったものに分けられます。
そうした目的に合わせた温度で焼きなましすることで、金属のさまざまな性質を改善することができます。
完全焼きなまし
「完全焼きなまし」は、もっとも一般的な焼きなましの方法で、JIS記号ではHAFと表記し、内部の結晶粒度を均一に整える目的で行います。
完全焼きなましは、変態点以上に加熱したあと、ゆっくりと炉中冷却を行い、臨海区域まで炉中で冷却します。なお、その後に空冷したものを二段焼きなましといいます。
また、臨海区域とは火色消失温度であり、約550℃で炎の色により温度が変わりますが、色が保てなくなる状態のことです。
球状焼きなまし
鋼は熱処理されて冷却すると、鋼の構造は層状になったり網状になったり、針状になったりと冷却方法によって変化しますが、そうした形状では脆いため、球状化するために球状焼きなましを行います。
球状化するためには、加熱と冷却を繰り返したりするなどの方法があります。球状焼きなましは、JIS記号ではHASと表記します。
応力除去焼きなまし
「応力除去焼きなまし」は、金属処理で冷間加工や溶接などで発生した残留応力を除去し、割れを防止するために行います。JIS記号では、HARと表記します。
また、残留応力とは、物体内部に生じ、外力を除いたあとにも保留される応力のことをいいます。
拡散焼きなまし
鋳造部品によっては、合金成分の一部が組織の構造内で偏ってしまいますが、そのことを偏析といいます。
その偏析を解消し、高温で成分や不純物などを均一化するために拡散焼きなましを行います。
偏析を解消するためには、変態点を超えて長時間加熱したあとで、普通の焼きなましを行います。拡散焼きなましは、JIS記号でHADと表記します。
現状化焼きなまし
「現状化焼きなまし」は球状のセメンタイトで加工性を良くします。
等温変態焼きなまし
「等温変態焼きなまし」は、パーライトを制御して切削性を向上させます。
焼きなましのメリット
焼きなましには、鋼の組織を均一にする効果があり、安定した鋼に仕上げることができます。焼きなましの効果には、応力除去がありますが、応力除去について以下に説明します。
応力除去
金属材料には内部応力があって、非常にやっかいなものとされています。冷間加工や鋳造の金属凝固の過程、砥石による研削、刃物による金属切削、焼入れや溶接などの加熱によっても残留応力が生じます。
残留応力とは、外部からの圧力を除去したあとも、金属内に存在する応力のことですが、その残留応力を除去するために焼きなましを行います。
応力除去のためには、400から600℃で加熱しゆっくりと冷却する必要があります。
焼きなましのデメリット
焼きなましをすることで、鋼の組織を均一化することができますが、処理が不完全な場合は、機械加工に適さない素材になったり、加工ムラが生じることもあります。
さらに、処理が不完全だと加工するときに、曲がりや反りが発生しやすくなり、焼入れしたときに硬さもバラツキが生じることもあります。
焼きなましにより、どんな材料も軟らかくなるのかといえば、そんなことはありません。金属の成分によっては、焼きなましを行なってもあまり軟らかくならないものもあります。
焼きなましと焼き入れの違い
焼き入れは、鋼を730℃以上に加熱したあと、急激に冷却します。一方、焼きなましの場合、鋼を730℃以上に加熱したあと、ゆっくりと冷却します。
焼入れと焼きなましの違いは、加熱したとの冷却時間の長さにあり、素早く冷却するのか、ゆっくりと冷却するかの違いがあります。
焼きなましと焼きならしの違い
焼ならしを焼準といい、肥大化した金属の結晶粒を微細化、均一化し、靭性や機械的性質を改善し、800から900℃くらいに加熱して大気中で冷却します。
焼きならしも、焼きなましと同じように鋼の組織を均一化し、機械的性質を向上させるために行いますが、焼きなましは、組織の均一化の他に鋼を軟らかくすることを目的としています。
焼きなましと焼き戻しの違い
焼き戻しは、730℃以下で比較的低温で加熱し、その後急激に冷却します。焼きなましは730℃以上で加熱し、ゆっくりと冷却します。
焼きなましと焼き戻しでは、加熱するときの温度と、冷却する時間の両方で違いがあります。
熱処理に使う鋼の種類
熱処理を行う炭素鋼の種類にはさまざまありますが、炭素鋼は炭素量と温度によって組織が異なります。
炭素鋼は温度と炭素量の含有率を変えることで、フェライトやオーステナイト、炭化鉄、セメンタイト、パーライトなどに変化します。それぞれについて以下に解説します。
フェライト
酸化鉄を主成分としたセラミックの総称であり、700℃程度の温度域において発生します。その結晶構造は心立方格子となっていて、大半が強磁性を示し、磁性材料として用いられることが多いです。
オーステナイト
フェライトの変態点を上げ、911℃以上で生成されるものを指し、その結晶構造は面心立方格子でガンマ鉄とも言われています。
オーステナイトの名前の由来は、英国の治金学者のロバーツ・オーステンによって発見されたことからきています。
セメンタイト
オーステナイトが発生する温度域と同じ温度域で発生し、セメンタイトは金属組織学上の呼び方であり、フェライトと同様に、白色でもろい結晶であり、強磁性を示すものです。
パーライトが出現する前にオーステナイトと混在して出現します。非常に硬いもので、脆い組織ですが腐食しにくく、金属と非金属の化合物でありセラミックスの一種です。
パーライト
炭素鋼の組織の一種であり、炭素量の多い炭素鋼の中に見られます。フェライトよりも色が黒いのが特徴で、黒曜石などのガラス質火山岩を1000℃程度の高温度で焼いた時に発生します。
非常に薄い板状とフェライトとセメンタイトが交互に並んだ状態で、共析反応によって形成される組織で、その厚さは冷却速度が早いほど薄くなり、冷却速度が速いとマルテンサイトや残留オーステナイトとなります。
まとめ
今回は、熱処理とはどんなものなのか、その種類を紹介しました。また、その中の焼きなましとはどんな目的で行われるのか、その特徴などをまとめました。
- 熱処理とは、ある一定の温度以上に金属を加熱したあと、適当な方法で冷却することです。もとの性質とは違ったものに変化させることをいい、英語でHEAT TREATMENTと表記します。
- 焼きなましは、用途や目的によって「完全焼きなまし」「球状焼きなまし」「応力除去焼きなまし」「拡散焼きなまし」「現状化焼きなまし」「等温変態焼きなまし」といったものに分けられます。
- 焼きなましは、鋼の組織を均一にする硬化があり、安定した鋼に仕上げることができるというメリットがありますが、デメリットは、処理が不完全な場合は機械加工に適さない素材になったり、加工ムラが生じることです。
- 熱処理を行う炭素鋼は、温度と炭素量の含有率を変えることで、フェライトやオーステナイト、炭化鉄、セメンタイト、パーライトなどに変化します。