ショットピーニングとは?ピーニング処理の効果や作用

材料表面の硬さや疲れ強さを高める際に有効なショットピー二ング処理。具体的な特徴や実際の方法、適した加工品や投射剤、ショットピー二ング処理の効果や作用についても解説します。ショットブラストやサンドブラスト(エアーブラスト)との違いについてもご理解いただけます。

ショットピーニングとは?ピーニング処理の効果や作用のイメージ

ショットピーニングとは?

ショットピーニングは表面処理のなかでも「表面硬化」を目的とした「噴射加工」の一種です。似たような噴射加工に、遠心力を利用した「ショットブラスト」や空気圧を利用した「サンドブラスト」(エアーブラスト)がありますが、この2つのブラストは幅広い「表面処理」を目的としています。

  • ショットブラスト:表面処理(遠心式)
  • サンドブラスト(エアーブラスト):表面処理(空気式)
  • ショットピーニング:表面硬化(遠心式・空気式)

そもそもショット(shot)とは発砲や弾丸、ピーニング(peening)とはハンマーの頭で打つという意味です。ただ、噴射加工のショットピーニング処理では「投射剤」のことをショットといいます。表面硬化がおもな目的というショットピーニング加工の特徴や方法、使われる加工品、投射剤、効果や作用について具体的に見ていきましょう。

ショットピーニング加工の特徴

専門的にいうと、ショットピーニングは「塑性(そせい)変形」を利用した「冷間加工」の一種です。外から力を加えると材料(加工品)は変形しますが、この外力を取り去ると形が元に戻る場合は「弾性変形」、元に戻らない場合は「塑性変形」(永久変形・残留変形)といいます。材料の再結晶温度以上で行う「熱間加工」に対して、再結晶温度未満で行う「冷間加工」は材料の硬さが増し、強度が高まるところがメリットです。

こうした「加工硬化」と並んで、「疲労強度(疲れ強さ)の向上」もショットピーニングの大きな目的となっています。材料は繰り返し外力を加えられると疲労しますが、破壊しなくなる「疲労限度」(疲れ限度)があり、疲れ強さを高めるためには材料に「圧縮残留応力」を与えるショットピーニングが有効です。

「外力」を加えられた材量には反発する「内力」が生まれ、外力を取り去っても材料に残る内力のことを「残留応力」といいます。圧縮する力が残った場合の「圧縮残留応力」は材料の強度を高め、引っ張る力が残った場合の「引張(ひっぱり)残留応力」は材料の強度を低下させてしまうものです。ショットピーニングには材料の寿命を延長する「圧縮残留応力」を与えられるという特徴があります。

ショットピーニングの方法

ショットピーニングは小さな球体粒子の「投射剤」を高速でたくさん打ち付けることによって、材料(加工品)の表面に梨地状の丸いくぼみができるという加工方法です。投射剤の投射方法によって大まかに分類され、「遠心式」と「空気式」の2種類があります。

  • 遠心式(インペラ式・機械式)
  • 空気式(エアー式・噴射式):直圧式・吸引式(乾式)、湿式

インペラ式、機械式とも呼ばれる「遠心式」は投射速度が速く、投射容量が大きいので大量生産や大型の加工品に適した方法です。エアー式、噴射式とも呼ばれる「空気式」には乾式の「直圧式」と「吸引式」、「湿式」という3種類の方法があり、いずれも小型あるいは特殊な形状の加工品に用いられます。

ショットピーニングが使われる加工品

材料の硬さや強さを増すことによって、寿命を延長させる効果があるショットピーニング。よく使われる加工品は大まかに自動車部品・航空機部品・機械部品・プラント(生産設備・大型機械)などです。

自動車部品

自動車部品としてはばねのほか、デフギア(ディファレンシャルギア・差動装置)・ピニオンギア・トランスミッション(変速機)ギアなどの歯車、エンジンに用いられるコンロッド(コネクティングロッド)、エンジンを構成するクランクシャフトやタイヤをつなぐアクスルシャフト(ドライブシャフト)などのシャフト(軸)でショットピーニングがよく使われます。

航空機部品

さまざまな分野のばね、ボルト、金型、タービンブレードといった機械部品でもショットピーニングが使われます。

プラント

プラントでショットピーニングがよく使われるのは、石油化学プラントのタンクなどの圧力容器のほか、食品プラントなどです。

ショットピーニングの投射剤

ショットピーニングの投射剤の材質としては鉄系・鋼系(ステンレス系)・ガラス系・セラミック系・樹脂系などがあり、加工品の硬度や圧縮強さなどに応じて選びます。投射剤を選ぶ際にポイントとなるのは投射剤の形状・比重・粒度・硬度・表面状態・消耗量です。

ショットピーニングの場合はどのような加工品でも投射剤の形状は球状が適しており、投射剤の比重は材質固有、粒度はどの材質でもそれぞれ選ぶことができます。冷間加工によって調整できる硬度の幅が広いのは鋼系です。とくに鋼系の鋳鋼(ちゅうこう)の場合は表面をおおう酸化被膜の有無に気をつける必要があります。投射剤の消耗量はコスト面を左右するため、選ぶ際に注意したいポイントです。

ショットピーニング処理の効果

ショットピーニング処理をすることによって材料の表面が「加工硬化」し、材料に「圧縮残留応力」を与えることができるため、「疲労強度・潤滑性・耐摩耗性・耐応力腐食割れ性・放熱性」を向上させ、「流体抵抗」を低減するといった効果が得られます。

具体的に説明すると、投射剤によって表面に梨地状の丸いくぼみができるので材料が疲れ強くなり、くぼみに潤滑油がたまることによって摩擦を減らすことが可能です。さらに「応力腐食割れ」という経年劣化に対応する力が強まり、放熱性も高まるのでオーバーヒートを防ぐことができます。流れる気体や液体から受ける「流体抵抗」を減らすこともできるので自動車や航空機、さまざまな機械やプラントの部品がスムーズに動くようになるところもメリットです。

ショットピーニング処理の作用

ショットピーニング処理は材料の寿命延長や軽量化、騒音の低減にも役立ちます。また、熱処理や溶接を施した材料には強度を低下させる「引張残留応力」が生じる場合もありますが、ショットピーニング処理をすると強度を高める「圧縮残留応力」に変化させることが可能です。とくに自動車や航空機の歯車(ギア)に用いられる浸炭鋼(しんたんこう)は、ショットピー二ング処理によって疲労強度が格段に向上します。

さらにショットピーニングを利用した「ピーンフォーミング」という加工方法によって、航空機の翼を成形することも可能です。アルミニウムの表面をアルマイト(陽極酸化処理)した後の小さな穴を閉じる「封孔処理」(ふうこうしょり)にもショットピーニングが利用されています。

まとめ

「塑性変形」による「冷間加工」のショットピーニングには「遠心式」と「空気式」という2種類の方法があり、おもに大量生産や大型の加工品の場合は「遠心式」、小型や特殊な加工品の場合は「空気式」が用いられます。

ショットピーニングが使われる加工品は自動車部品や航空機部品、機械部品やプラントなど。加工品それぞれの硬度や圧縮の強さなどによって、投射剤の選び方が変わります。投射剤の材質には鉄系・鋼系(ステンレス系)・ガラス系・セラミック系・樹脂系などがあり、形状・比重・粒度・硬度・表面状態・消耗量を見極めることがポイントです。

「加工硬化」と「圧縮残留応力」の付与という特徴があるショットピーニング。疲労強度や耐摩耗性などの向上により、加工品の寿命を延長することができます。「ピーンフォーミング」や「封孔処理」など、幅広く活用されている加工方法です。以上は大まかなショットピーニングの解説になりますので、実際に行う場合はさらに専門的な情報をご確認ください。