2020年09月28日公開
2020年09月29日更新
3D金属プリンタ積層造形について!造形原理などの基礎知識
3D金属プリンタ積層造形とは、2次元の金属粉末の層を一層ずつ積み重ねて造形する加工方法です。3D金属プリンタ積層造形の原理、特徴、メリットやどんな用途があるのかをまとめました。また、造形できる素材には金属の他にどんなものがあるのかを紹介します。

3D金属プリンタ積層造形とは
3Dプリンタによる造形法では、産業用から個人のホビー用まで、さまざまに利用されていますが、原料の多くは樹脂であり、最近までは金属や金属粉を原料にした積層造形に関してはまだ一般的に知られていませんでした。
3D金属プリンタ積層造形は、造形物がそのまま部品に使用できるといった利点があり、形状の自由度の幅が広いことや、従来の金属加工方法に比べて製作にかかる工数が少ないことから除々に注目されるようになりました。
3D金属プリンタ積層造形は、アディティブマニュファクチャリングや3Dプリンティングと呼ばれる金属加工技術のひとつです。
D-CADなどの3次元データをもとにして、スライスされた2次元の金属粉末の層を一層ずつ積みかさねていき、3次元の造形物を製造するものです。
3D金属プリンタ積層造形は、切削や鋳造といった従来の加工法では難度が高い、3次元複雑形状品の加工を実現でき、IoT(モノのインターネット)などとの整合性が高いため、次世代の加工技術として注目されています。
近年アメリカやヨーロッパ、中国でも技術の研究開発が進んでいますが、日本でも研究開発が急がれている状況です。
3D金属プリンタ積層造形の特徴
3D金属プリンタ積層造形は、3D-CADなどの3次元データから直接製品を造形できることから、鋳造や切削などではできなかった、3次元複雑形状品が製造できるようになりました。
また、3D金属プリンタ積層造形によって、表面形状だけでなく内部構造も表現できるようになりました。
日本での取り組みは、やや遅れていましたが、国家ブロジェクトとして装置や金属粉の開発に取り組んでいます。
生産速度の改善にはレーザーなどでは限界があり、新規の方法として、液体に金属ナノ粒子を分散させたものをインクジェット方式で吹き付ける工法などが考案されています。
3D金属プリンタ積層造形のメリット
3D金属プリンタ積層造形は、他の工法では難しいとされる3次元複雑形状品の製造ができることの他に以下の3つのメリットがありますが、それぞれについて解説します。
- ラティス構造体が製造できる
- 傾斜構造・複層構造体が製造できる
- トポロジー最適化によって設計された製品の実現
ラティス構造体が製造できる
3D金属プリンタ積層造形は、非常に細かなラティス構造(格子状の構造)のものを形成することができますから、軽量化、断熱効果、生体適合性といった機能を効果的に使うことができます。
そのことは、航空宇宙分野において、軽量化部品に適応でき、産業機器分野における熱交換器や医療分野のインプラントなどでも適応できます。
傾斜構造・複層構造体が製造できる
3D金属プリンタ積層造形は、内部と外部の素材が異なったものや、複数の素材の組成が連続的に変化して組み合わされた構造体の造形も可能です。
トポロジー最適化によって設計された製品の実現
トポロジー最適化とは、シミュレーションを繰り返すことで最も効率的な形態や形状を設計することができる自由度の高い構造最適化手法です。
3Dプリンタが登場する前までは、トポロジー最適化によって設計されたものを造形する技術がありませんでしたが、3Dプリンタが登場することによって、新しい構造の製品を造形することができるようになりました。
現在では、トポロジー最適化によって航空宇宙分野など、いろいろな分野で利用されるようになりました。
3D金属プリンタ積層造形で使われる素材
3D金属プリンタ積層造形で使われる素材は、金属だけでなく、樹脂、石膏、砂、セラミックなどでも適応できます。
3D金属プリンタ積層造形が使われている分野
3D金属プリンタ積層造形が使われている分野には、航空宇宙分野や医療分野を中心として活用されています。その他には自動車分野における試作品や産業機器分野におけるタービンプレートや機能性金型への展開も進んでいますが、それらについて説明します。
航空宇宙分野
ジェットエンジンの燃料噴射ノズルやタービンブレート、ロケットエンジン部品などでの適応が進められています。
医療分野
医療分野では、人工関節用臼蓋コンポーネントやひざ関節用インプラントなど、さまざまな部位のインプラントへの適応が行われている。
自動車分野
自動車分野では、従来の切削加工や鋳造により行われている部品試作品の製作で活用されるようになり、制作時間の短縮とコスト削減に貢献しています。
ドイツの自動車メーカーでは、修理部品への適応も進められていて、今後はさらに電気自動車導入への動きも進められ、適応分野の拡大が予想されています。
産業機器分野
産業機器分野では、タービンや熱交換器への適応など、幅広い製品への適応が進められています。軽量で剛性の高い製品や複雑形状な製品の製造、多数の部品からなる製品の一体化成形による、製造時間の短縮やコスト削減などが可能になります。
金型
射出成形用金型において、最適な冷却水管の配置、深い溝や高いリブの配置など従来の切削加工では難しい加工が、3D金属プリンタ積層造形によって加工することが可能になりました。
また、従来の金型と比べ製造期間を大幅に短縮することができます。
3D金属プリンタ積層造形の造形原理とは
3D金属プリンタ積層造形に用いられる工法にはさまざまなものがありますが、代表的な加工方法は、パウダーベッド方式とデポジション方式です。
パウダーべッド方式
パウダーべッド方式は、金属粉末を敷き詰めて、造形する部分にレーザや電子ビームを照射し、溶融・凝固させながら積層させる方法です。造形が終わったあとは、固化していない粉末を取り除いて造形物を取り出す必要があります。
パウダーべッド方式は、複雑な形状の高精度製品を製造する場合に効果的です。金属積層造形で最も多く利用されている方式で、航空宇宙分野ではジェットエンジンの噴射ノズルやタービンブレート、ロケットのエンジン部品などで適応が進められています。
また、医療分野ではカスタムメイドが可能なため、インプラントの適応が進められ、さらに自動車分野での試作品や小ロット部品、産業機器分野でのタービンなどで部品の適応が進みつつあります。
パウダーベット方式には、レーザビーム熱源方式と電子ビーム熱源方式という二通りの方式があります。
レーザビーム熱源方式
レーザビーム熱源方式は、敷き詰められた金属粉材料にレーザビームを照射し、溶融・凝固、または焼結させて積層造形します。この方式は、金属3Dプリンタの中で最も普及されている方式です。
電子ビーム熱源方式
電子ビーム熱源方式は、敷き詰められた金属粉材料に電子ビームを高真空中で照射し、衝突させることで運動エネルギーを熱に変換し、粉末を溶融させる方式です。レーザビーム方式は窒素などの不活性雰囲気中で溶融凝固しますが、電子ビーム方式では真空中で溶融凝固します。
プリンタの構造は、レーザビーム熱源方式と似ています。ただ、レーザビーム熱源方式はレーザを照射する際に位置を決めてミラーの角度を変えるのに対し、電子ビーム方式では、磁界によるレンズを用いて電子ビームの向きを変えることができます。機械的移動ではなく電気的な移動であるため、高速な位置決めが可能です。
デポジション方式
デポジション方式は、金属などの材料粉末とレーザや電子ビームを造形部分に同時に照射し、溶融・積層して造形する方法です。既存製品の補修、単純な形状の大型造形品の製造に向いている方式です。
また、ジェットエンジンのブレートやさまざまな部品の補修に利用されていて、ロケットエンジンの配管部品などへの適応が進められています。
デポジション方式には、レーザビーム熱源方式とアーク放電方式がありますがそれぞれについて以下に解説します。
レーザビーム熱源方式
ノズルから金属パウダーを噴射すると同時にレーザ光を照射することで、金属パウダーを溶融池に供給し、凝固させて造形させます。
アーク放電方式
金属ワイヤー先端のアーク放電によって金属ワイヤーを溶融し、これを積層することで造形します。装置価格や材料費は比較的安く、高速造形も可能な方式として注目されています。
まとめ
今回は、3D金属プリンタ積層造形について、その特徴やメリット、用途に関することを紹介しました。
- 3D金属プリンタ積層造形は、アディティブマニュファクチャリングや3Dプリンティングと呼ばれる金属加工技術のひとつです。
- 3D金属プリンタ積層造形は、3D-CADなどの3次元データから直接製品を造形できることから、鋳造や切削などではできなかった、3次元複雑形状品が製造できるようになりました。
- 3D金属プリンタ積層造形は、ラティス構造体が製造できる、傾斜構造・複層構造体が製造できる、トポロジー最適化によって設計された製品が実現できるといったメリットがあります。
- 3D金属プリンタ積層造形で使われる素材は、金属だけでなく、樹脂、石膏、砂、セラミックなどでも適応できます。
- 3D金属プリンタ積層造形は、航空宇宙分野や医療分野を中心として活用されています。
- 3D金属プリンタ積層造形に用いられる工法にはさまざまなものがありますが、代表的な加工方法は、パウダーベッド方式とデポジション方式です。